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それは1年前にはじまった... 第1話
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もうすぐ1年になろうとしている。あの時も肌寒い1日だった。
居酒屋で暖を取り、連れられるがままに入ったのが、
運命の分かれ目になるとは、知る由も無く。

こじんまりとしていたが、なぜか活気のあるアットホームな店だった。
今まで行っていた所が、どこか年配用の静けさをかもしだしていたのに比べ、
そこはまるで市場にでも迷い込んだかのような錯覚を覚えるほど、喧騒の中だった。
おきまりの「イラッシャイマセー」の握手もほどほどに、俺は連れの大先輩の隣に座り、
女の子達を無視して話こんでいた。

その大先輩はちょうど今の俺と同じころ、ピーナの嫁さんをもらっており、
子供達と共に幸せな家庭を築いている我々にとっては神様のような存在で、
この世界と比国の事は、大抵知っている人だ。

それまで、自分自身では嵌まったりカモられたりした経験などゼロだったのだが、
色々なサイトで様々な体験談を読んだ俺は、これは明日は我が身となるやもしれぬ、
と心配し、地獄を見る前に持っている疑念を全て大先輩にぶつけ心の準備をしておこう、
と思っていたのである。

今まで、何軒もPPを経営してきたこともある大先輩。
その人のいままでの20年間の全てを聞きながら、ある時は大笑いし、
ある時は身の毛もよだつような戦慄を覚え、時は過ぎていった。

師匠が語るフィリピンとピーナ、それはまさに仕事でしか知らなかった上辺のフィリピンとは異なる、
未知との遭遇であった。

話も一段落し、静かに座っていると、となりの個室のパーテイが終わったようで、
ゾロゾロとお客さんが出て行った。その後、店員に呼ばれ、1人のタレントが俺の前にきた。

「はあ、きれいな子もいるんだなあ」

それが、第一印象だった。

「ナンシーでーす。よろしくお願いしますね」

イントネーションから何から完璧な日本語だった。陽気でよく喋るナンシーは、
師匠や他の連中から、「お前日本人だろ!」と何度も突っ込まれるほど、言葉だけでなく、
この国の文化に精通していた。そう、どうみてもアルバイトにしか思えなかった。

「日本は4回目でーす」
「ホント?パートでしょう」
「違うよ。ほら、見てよ」

と様々なIDを見せる彼女。

「本物なの?」
「あたりまえでしょう!」

全く信用していない俺はこんな会話を30分も続けていた。

「あなたの気持ちを歌で伝えて、私も伝えたいから」

2時間もしたころ、彼女からそう言われ、カラオケブックを手渡された。
正直俺はこのような雰囲気で歌う歌など知らないのだ。なんせ歌える歌と言えば、
60年代のブリテイッシュロックなのだから。ストーンズじゃヒンシュクかうしなあ。
俺が悩んでいるとナンシーは既にリクエストを書き終わり、紙を手に持っている。

「何にしたの」

と聞いても「教えない、あとでね」と笑っている。しょうがない。腹をくくった俺は、
ビリージョエルで何とかその場をしのいだ。ナンシーは、「I gave you all」を歌った。
横で聞いていて驚いたのは、彼女の歌唱力。まさにプロ並の凄さだった。

この子は一体何者なんだ?

俺の心の中に興味がわき始めていた。


Dr.Alabangさんの投稿
それは1年前にはじまった... 第1話完


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