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避暑地の森の天使−1話 遠い道程
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トヨタのカローラに

乗り込んだのは、暑さもピークが過ぎた16時ぐらいであった。 都会の渋滞を抜け、高速道路を時速100キロで走っているカローラの後部座席で、 2リットルのペットボトルに入った伊藤園の烏龍茶をラッパ飲みしながら車窓から外の景色を眺めていた。 途中にあるサービスエリアで休憩を取り、再び目的地に向けてカローラは発進する。 今までに一番長く車に揺られていたのは、どれくらいだったのだろう‥‥? 最高は、千葉-岡山までの9時間だ。でもその時は、自分で運転していたので、さほど疲労感はなかった。 あとは、中学の林間学校で千葉から群馬まで高速を使わずに7時間もバスで揺られていた事がある。 出発してから3時間。休憩の為に街道沿いのマクドナルドへ寄る。 既に時計の針は19時。辺りは真っ暗だ。 「そんな長い距離を走って行く避暑地ってドコ!? 軽井沢か?」 などと質問が聞こえそうだが、ここは日本ではなくフィリピンである。 長い距離を走って時間がかかるのではなく、殆どが渋滞の影響。ノロノロ運転で異様に時間がかかるのだ。

「フィリピンなのに烏龍茶?」 と疑問を持つ人もいるかもしれない。出発前にマニラのスーパーマーケットで買ったのだが、 驚くほど高い。2リットルのペットボトル2本で550ペソ(約1400円)だった。 セブンイレブンなら、500ミリリットルのミネラルウォーターが27本は買える価格である。 日本のスーパーならこの烏龍茶、特売品で200円もしないで買えるときがあるのに‥‥ 後で冷静になって考えてみると「なんてこったい!」と叫び声をあげてしまいそうになる。 それでも伊藤園の烏龍茶の誘惑には勝てなかったのである。

車に乗っているのは

結婚式の付添人をした友人の加藤滋雄、妻のメイ、娘のメアリー。 そして、ナッシュ・ブリッジス‥‥ そう。つまりこの俺。 結婚式を終えて、加藤とメイの家族の親睦旅行にノコノコついて来たわけだ。 マクドナルドに入って4人分のオーダーをして金を支払う。 各国共通のマニュアルを使用しているので購入方法は日本と一緒だ。 そういえば、アメリカに留学や観光をしている日本人女子学生がマクドナルドで、 「英語でハンバーガー買っちゃった〜 私って英語が上手いかも♪」 とバカ丸出しで喜んでいた‥‥という本で読んで、その著者と同じくあきれたのはもう10年も前だったかなぁ? そんなこと思ってるとメイが話し掛けてきた。

「ナッシュ。 バギオにあと1時間で着く。
アコのナナイのアテのバハイ行くよ。 (私のお母さんの姉の家に行くよ)
今日ソコに泊まる。夜は危ないダカラ‥‥
それからアコのアサワ(私の旦那さん)をみんなに紹介スル」
俺はコーラを飲みながら言った。
「OK!それは必要だね。
それに山賊が出ても困るし‥‥ ま、しょうがない‥‥」
「山賊が出るの!?」 加藤が驚く!お気楽気分が一気に吹っ飛んだ様子だ。
「まぁね。山賊なんて中南米だけの話じゃない。
フィリピンのジャングル、夜の山道の危険は最高レベルだぜ!
俺、ちょっとタバコ吸ってくる。店内全面禁煙ってのは困るよな‥‥」
俺はそう言うと、席を立ち外に出た。マルボロにジッポーのライターで火を着け紫煙をくすぶらせた。 フィリピン特産のタバカレラ、アルハンブラの葉巻が妙に吸いたくなる。

しばらくするとメイの

母親の実家に到着した。交通事故で下半身が麻痺している "加藤" をカローラから降ろすのを手伝う。 メイの家族は暖かく迎えてくれた。小学校4〜5年生ぐらいと思われる親戚の子供たちは、日本人である俺たちを 遠巻きに眺めていた。

AKO SI NASH.BRIDGES,
ITO SI AKIN MAGA KAIBIGAN NI MR.SIGEO KATO,
IKINAGAGALAK KONG MAKILALA KAYO.
私は、ナッシュ・ブリッジスです。
こちらは、私の友達の加藤滋雄です。
皆さんにお目にかかれてうれしいです。
簡単に自己紹介する。家族たちは、俺がフィリピノ語を話すのに驚いている。 それからは、英語とフィリピノ語がごちゃまぜにした会話でコミュケーションを取った。

しばらくするとメイの母親の兄夫婦が姿を見せた。

MANO PO!
俺は、差し出されたその右手を自分の額に当て
Oo PO!
IKINAGAGALAK KONG MAKILALA KAYO.
「お会いできてうれしい」とフィリピンスタイルの挨拶を交わす。 子供たちは早速CDのカラオケセットを持ち出してくる。俺もつきあいで一曲披露する。 英語で歌い慣れたカーペンターズの "Ther's A Kind of Hush" だ。 俺は、CDを何回も繰り返し聞きながら一緒に歌い、歌詞カードを見ずに歌えるなるまで、 つまり、暗記してから初めてカラオケを披露することにしている。 そんなこんなで夜は更けて行く‥‥ 俺が眠るスペースは、その家の娘の部屋があてがわれた。
Have a good sleep.
と挨拶してからシャワーを浴び、Tシャツとトランクスの格好でベッドに潜る。 タオルケットもかけずに扇風機から送られて来る風を受けながら眠りの世界に入って行った。

Good morning!

朝の挨拶をして洗面所で顔を洗う。 コーヒーが用意されていたので、早速マルボロに火をつけてモーニングコーヒーを味わう。 一緒にチーズサンドの朝食を済ませ、バタバタと出発の準備が始まった。 どうやらメイの従姉妹とその娘たちも同行するらしい。慌しく車に乗り込むと目的地 "バギオ" に向けて出発した。

ガイドブックには、パサイ市にあるビクトリー・ライナーのバスターミナルからの所要時間は6時間。 料金はエアコン付きバスで157ペソ(約400円)と書いてあった。 雑談を交わしながら1時間程ドライブすると、カローラは山道に入った。勾配がキツく曲がりくねっている 道路を眺めながら「俺のインテグラで攻めたら楽しそうだな‥‥」などと考える。 20代の前半までは茨城にある "筑波山パープルライン" をセリカで攻めていたのでウズウズする。 国際免許を持っていないことを本当に悔やんだ。

ベンゲット州の州都バギオに到着。標高1600mの "高原の避暑地" は思ったよりもかなり大きな街だった。 聞くところによると夏の間は、フィリピン政府もここに移動して来ると言う。 ロータリーに車を止めると、クリアーファイルを持った男が近づいて来た。 クリアーファイルの中身は、ホテルの部屋の写真や料金表などが挟んである。 どうやら観光客に宿を斡旋する仕事らしい。 メイの兄、ロナウドが交渉を始める。人数が多いので普通の一軒家を借りることになった。

その一軒家に到着して、料金を前払いして荷物を降ろす。 すぐに出かけることになり、また慌しく車に乗り込んだ。 一通りの観光スポットを廻り、バーンハム公園のベンチでマルボロを吸う。 様々な物売りが近寄って来る。 しかし俺が買ったのは喉を潤すミネラル・ウォーターだけであった。

Nashさんの投稿
避暑地の森の天使−1話 遠い道程 完

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